第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
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脱衣所に羽織を脱ぎ捨て、襦袢姿の舞を抱いて湯殿に足を踏み入れた。
「暗い…ですね」
兼続「湯を浴びる刻限じゃないからな。湯釜に残っている湯も冷えた頃だ」
明かりを点す台の上は片付けられて何もなかった。
湿気を逃すために窓が開けられていて、そこから差し込む月明かりを頼りに動くしかない。
寂れた雰囲気の中、椅子に腰かけると床材とこすれ合った音が空しく響いた。
それが合図かのように舞が遠慮がちに口を開いた。
「湯浴みは自分でします」
兼続「足腰が立たない人間が1人で湯浴みする方法があるなら言ってみろ」
「だって兼続さんは寝間着を着たままじゃないですか。濡れちゃいますよ?」
兼続「そんなこと気にしている場合じゃない。
少し黙っていろ」
唸るように言うと、舞は身体を縮めて静かになった。
(寝間着を脱げと言いたいのか?)
本人は寝間着が濡れるのを気にかけているだけだろうが、俺を煽っていることに気づいていない。
(能天気さが恨めしいな)
湯釜に手桶を突っ込み、なみなみ溢れた水を舞にかけた。
バシャンッ!
「ひゃっ!」
まさか頭からかけられるとは思っていなかった舞は顔に流れる水を両手で拭った。
至る所からポタポタと水を滴らせて白い顔をしている。
そこで俺はようやく正気を取り戻した。
(やってしまった…)
部屋での行いもそうだが、舞に八つ当たりするように水をかけた後悔。
俺自身も頭から水をかぶった。
バシャンッ!
兼続「っ」
(冷たい…)
おかげで完全に目が覚めた。
盛んに燃えていた怒りの炎は、焦げ付いた残痕となって静まった。