第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
宴前に謙信様とともに迎えに行けば、晴れ着姿は目が覚めるような美しさだった。
しかし見た目は変わろうとも、舞は舞だ。そのうち裾を踏んで転ぶだろうと予測していたがその通りになった。
『わわっ!!?』
謙信『っ、そそっかしい奴だ。大丈夫か』
『すみません…』
あの時、ここまで行動が読みやすい女は居ないと吹き出しそうだった。
支えてやれなかったのは残念だったが、『すみません!』と言って、謙信様と俺に見せた照れ笑いでどうでもよくなった。
(今日はたくさん舞と一緒に居られたな…)
安らかに眠っている顔を見つめていると、こちらまで安らいだ気持ちになる。
執政の仕事は忙しく、普段は舞と共にできる時間はほとんどない。
一日共に過ごせただけでなく、まさかこうして寝ることになろうとは、男に襲われるという事件がなければ喜ばしいことだった。
兼続「ふっ、ポヤっとした寝顔だな」
恋仲になりたいなどと高望みは最初からしておらず、可愛い女だと見守るだけに留めていた。
ところが今は邪な欲望が生まれている。
南蛮の強烈な媚薬は、胸の内にしまっておいた『手に入れたい』という米粒のような願望を何百倍にも膨らませて、甘く誘いかけてくる。
突然『舞に触れたい』『ぐっすり眠っているのだから、少しくらい触れても良いだろう』という考えに襲われて右手が動いた。
兼続「っ」
(何をしようとしているんだっ!)
頭を振って忌まわしい考えを振り払う。
だがその程度で誘惑を振り払えるものではなく、何もしなければすぐに蘇る。
(一度触れてしまえば止まらなくなる…っ)
欲望を黙らせるために自慰をすることも考えたが、衝立越しに相手が居る状況でそれはできない。
(少し部屋を出よう。離れなくては危険だ)
舞を起こさないよう静かに立ち上がった。
部屋を移って、そう時間は経っていない。
男達がここを突き止めて忍び込んでくるにしても、まだ猶予があるはずだ。
兼続「水を取りに行ってくる。
すぐ戻るからそのまま寝ていろ」
空になった水差しを持って部屋を出ると、欲望とせめぎ合っていた理性が瞬く間に勝利を勝ち取った。
うるさかった頭の中に漸く静寂が訪れ、深く息を吐いて厨に向かった。