第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
――――
(兼続目線)
兼続「まずいな」
解毒のためと頻繁に水を口にしていたが、ついに水差しが空になった。確か舞が水を持っていたはずだと声を掛けたが返事がない。
衝立てからのぞくと、舞は行儀よく仰向けに寝ており、傍らには枕が転がっていた。
大方不安を凌ぐために抱きしめて寝ていたのだろう。
舞は心細そうにしていながら泣きついてこなかった。
(相手が俺では泣きつけるわけない……か)
謙信様を待つ間、ふらついた俺を支えてくれた手を振り払ったのは誰か。
一瞬見せた悲しそうな顔。ぎくしゃくと距離をとろうとする態度に、舞との信頼関係が薄れたように感じた。
仮に今ここに居るのが俺ではなく佐助や幸村だったら、舞は気を許して泣いていただろう。
兼続「ちっ、薬のせいか。余計なことに気をとられる…」
不安に揺れている舞の力になりたかったが、媚薬におかされている自分には非常に難しい。
卑猥な熱がくすぶり続けていて、舞の傍に居れば一気に燃え上がるのは火を見るより明らかだった。
南蛮渡来の品となれば強さも持続力もわからない。
(二代にわたって愚か者か)
新旧の大名の顔を苦々しく思い出していると、スースーと規則正しい寝息をたてていた舞がわずかに声を漏らした。
「ん…」
起きたのかと思ったが眠り続けている。寝顔を勝手に見るとは不躾も甚だしい。
だが愛しく思っている女が寝ているのだから仕方ない。
そう。俺は舞が愛しい。
兼続「ずっと好ましいと思っていた」
突き抜けて短絡的な思考や危なっかしいところは舞の短所だが、格別に愛おしいと思うところでもあった。
謙信様の恋仲役でありながら呆れるほど普段通りの振る舞いで、本来ならば注意して正すべきところだった。
だが、
『駕籠から兼続さんが全然見えなくて少し寂しかったです』
自ら駕籠を降りて、顔を合わせて一番にそう言ったのだ。
別に舞は思うところがあって言ったのではないとわかっている。そう頭で理解しながら『寂しい』の裏に無いはずの好意を探してしまった。
そうして最後に出たのは注意の言葉ではなく溜め息だった…。