第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
兼続「事情を聞いたが怪我はなかったのか?」
「謙信様のおかげで怪我はありません」
(少し触られたけど…)
悪意ある手は、友達や家族のボディタッチとは明らかに違った。不自然にいつまでも手の感触、強さが残り、消えない。
さわられたお腹や腕を無意識に撫でたのを、兼続さんは見逃さなかった。
兼続「舞が身を守れる方法があるとしたら声をあげるくらいだ。
唯一の手段を手放せば、その報いは自分に返ってくるだけだぞ」
「はい」
兼続「怖くて動けなかったとしても、助かるためには怖くても動かなくてはならなかったんだ。
これから戦国の世で生きていくつもりなら、そこをしっかり心掛けろ」
「はい。気をつけます」
手厳しく叱られ、正論だから頷くしかない。
うつむいた拍子に乱れた自分の寝間着が見えて、その理由に心臓が嫌な音を立てた。
従順な返事を繰り返すばかりで可哀想だと思った…かどうかは知らないけれどお説教はそこで終わり、急に態度が軟化した。
兼続「外傷はいずれ治る…が、内に負った傷は他者には見えず治りにくい。
大丈夫か?」
大丈夫か?の一言だけじゃないところが兼続さんっぽい。
(こんな時まで理屈っぽい言い方をするんだな)
きっとこの人はどんな窮状であっても、こんなふうに尋ねてくれるだろう。
そんな理性的なところが今の私にはとてもありがたかった。
「大丈夫……です」
立ち直る時間もなく、全然大丈夫じゃないのに反射的にそう答えると兼続さんは顔をしかめた。
兼続「本人さえも傷の深さを把握できないのが内面の傷だ。
仮に俺が今、お前に触れても平気なのか?
隣室に俺は居るが一人きりの部屋で寝ることに不安を抱かないか?」
「……兼続さんに触れられるのは平気です。
けど布団に入っても眠れないかも…しれません」