第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
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謙信「舞の居所が知れてしまった。
身の保全のため兼続に預ける」
兼続「はっ、かしこまりました」
謙信様は向き直って私の頭を撫でた。もう恋仲の演技は必要ないのに私に触れて、慰めようとしてくる。
「ん……」
謙信「もう大丈夫だ」
心配そうにのぞき込んでくる眼差しに、凍えるような冷徹さはない。
(あれ、謙信様ってこんな人だった?
そういえばずっと……優しかったかも)
大名の地に来てからは何かとフォローしてくれたし、宴の席や私が襲われていた時も優先して守ってくれた。
私はこの1年、謙信様に感謝していながら、怖くて冷たくて気分屋だと……誤解していたのかもしれない。
ふと興味を覚えてジッと見れば、光の加減で白い頬が色づいて見えた。
(謙信様が女の人に見つめられて照れるなんて、ないない。しかも相手は私だ、絶対ない)
謙信「恋仲役を頼んだばかりに大変な思いをさせたな。
城に帰ったら舞と別れたと噂を流そう」
「は、はい。お心遣い感謝します」
悠然とした後ろ姿が廊下の角に消えるまで見送り、私と兼続さんは静かに視線を交わして中に入った。
部屋にはうっすらと藤の香りが漂い、緊張していた身体からどっと力が抜けた。
(いつも兼続さんから香ってる匂いだ…)
酒くさい息をかけられたせいもあり、清浄で日常を思い出させる香りに安堵した。
(助かったんだ…よね。良かった)
危機を脱出したことを実感し、私は持ってきた荷物を抱きしめながらフウと息を吐いた。
兼続さんは隣室へ続く襖の前で立ち止まり、淡々とした視線で私を上から下まで眺めた。