第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
(方角が違うから謙信様や兼続さんじゃない…)
お二人のうちどちらかであって欲しいけど、無断で寝室に入ってくる人達じゃない。
媚薬の被害者が大勢出ているという話だったから、知らない男性が入ってきた可能性もある。
そう考えると身体が固まってしまい、息を殺して様子をみるしかなかった。
夜這いか、それとも刺客か。
どちらにしろ危害を加えられるとわかっていながら身体が動かなかった。
(助けを呼ばないと、でも……怖い…)
寝たふりをしたところで相手が去ってくれるわけもないのに、どうにかやり過ごせないかと石のように固まっていた。
畳みをゴソゴソと擦る荒気(あらけ)ない音と、ハアハアという息遣いが近づいてくる。
強いお酒の匂いがして目をギュッと瞑った。
(兼続さんも謙信様もこんなに強いお酒の匂いしてなかったよね。
誰が来たの……?)
酒の匂いが強いということは媚薬を摂取した量が多いということだ。
逃げなくちゃいけないのに……動けない。
男「はあ、お姫さん…、起きてんだろ?
少しでいいんだ、俺の相手をしてくれよ」
「っ!!」
耳に酒臭い呼気がかかり、乱暴に置かれた手に身体がビクンと反応した。
(しまった!)
これでは起きていると証明したようなものだ。
男「やーっぱり起きてたな、はは…女嫌いだった殿の寵姫か。
味わわせてもらおうじゃねぇか」
品の悪い笑い声に震えあがった。
(このままじゃ、だめだ。早く…逃げないとっ)
やっとそう決断して布団から這い出たものの、石化していた身体は動作がのろく、声帯は未だ硬直したままだった。
男「おっと…逃げるなよ。怖くて声も出せねぇってか?
都合が良いな」
「っ……!ゃ……!」
背後から腹部に手が回ってゾワリと鳥肌がたった。
怖すぎて悲鳴も出ず、混乱した頭に謙信様と兼続さんが浮かび上がった。
(助けを…呼ばなきゃ…!)
しかし口から出たのは悲鳴でも助けを呼ぶ声でもなく、はっ……はっ……という細切れの吐息だけだった。
(だめ…声が…出ない……)
叫ぶためには息を吸わないといけない。
しかし恐怖心のあまり、しゃくりあげている時のように気管が震え、うまく息ができなかった。
なんにもできない自分に混乱し、涙が溢れた。