第30章 魔女の薬(兼続さんルート)(R-18)
(姫目線)
お二人に早く寝ろと隣室に追いやられた。
もともと謙信様に用意された部屋とあって、1人で使うには気後れする広さだ。
謙信様の命令で屋敷に居た女性達は屋敷外に避難したそうで、宴から帰った私を出迎えてくれた女中さんは一人も居なかった。
広い部屋を見渡して、そっと息を吐いた。
「1人だからこんなに広くなくていいんだけど…。
あ、寝間着を用意してくれたんだ……」
布団の上には綺麗に畳まれた寝間着が置かれており、その他に身だしなみを整える道具や、化粧落としに必要なものが整然と並べられていた。
突然私の部屋が変更になったし、女中さん達だって早く避難しなくてはならなかっただろうに、女中さん達の大奮闘に胸が温かくなった。
寝間着を手に、誰も居ない部屋でお礼を言った。
「ありがとう…」
私が姫じゃなく庶民だと知っていても、春日山の女中さん達は『姫様』と親しみをこめて呼んでくれる。
宴の前は晴れ着が綺麗だと皆できゃあきゃあ言っていたのに、誰も居ないなんて嘘みたいだ。
「皆に早く会いたい。春日山城に帰りたいな…」
急に寂しくなってしまい、ノロノロと着替えて化粧を落とした。
寝ろと言われてもまだ20時前。
布団に入っても眠気は訪れず、少しすると兼続さんが退室の挨拶をして去っていくのが聞こえた。
(とんでもないことになっちゃったな。
まさか媚薬なんて……)
時間が早いだけでなく、無差別に媚薬が振る舞われたという非現実的な出来事が、眠気をどこかに押しやってしまった。
寝返りを繰り返しても一向に眠くならず、といって気分転換や暇つぶしになるものもない。
目が冴えて眠れない……とため息をついた時、ススと襖が静かに開いた。
(え…!?)
気のせいだろうかと息を詰めていると、またしても襖が動いた。
スス……ススス……
(廊下側の襖…?)
最初はこちらの様子を伺うように少しだけ、二度目は少し大胆に、三度目は二度目よりも大きく襖を開けられた。