第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
謙信「そうだ、舞に渡すものがある」
謙信様が盃を置くと、着物の袂に片手を差し入れて小さな箱を取り出した。
謙信「これは少しばかりの礼だ。
南蛮から流れてきたものだが、舞なら知っているか?」
「ありがとうございます。開けてもいいですか?」
謙信「開けてやる」
細い紐の結び目がとかれ、慎重に箱の蓋が開けられた。
蓋を開けた拍子に独特の……懐かしい香りがした。
現代を思い出させる、甘い香り。
箱の中には歪な形をした茶色い塊が数個入っていた。
佐助君も香りに気が付いて、こっちを見ている。
「チョコ……?
これ、まさかチョコレートですか?」
謙信「チョコとは言っていなかったが、血の流れに良い薬だと言っていた」
「この時代は薬として扱われていたかもしれません。
私の時代ではお酒と一緒で嗜好品の類でした。
懐かしい……」
食べるのがもったいなくて香りを楽しむために鼻を近づけた。
艶やかな甘い香りをかいでいると、あることに気が付いた。
「謙信様、他の方にチョコレートはあげましたか?」
謙信様が怪訝そうに首をふり、私が置いたチョコの箱のフタを手にした。
そのままためらいがちにチョコの香りを吸い込んで、甘い匂いだとスンと鼻を鳴らした。
謙信「ちょこは1つしか手に入らなかった。
だからあげたのはお前だけだ」
「謙信様の本命チョコ……!
佐助君、謙信様からチョコ貰ったよっ!」
謙信様に本命だ義理だと言ってもわかんないのに大喜びして、少し離れた所にいる佐助君にチョコを見せびらかしてしまった。
佐助君は口の端っこを少しだけ持ち上げて、良かったねと言ってくれた。