第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
――――
こうして謙信様はご自分をとりもどし、以前と同じくお仕事をするようになった。
政務が滞って困っていた家臣達は胸を撫でおろし、一時は開催中止かと危ぶまれた誕生日の宴も催されることになった。
信玄「誕生日おめでとう、謙信。
天女に誘われて出てくるとは、本当に古事記の一節みたいだな」
信玄様は片手で軽く拳を作り、謙信様の胸をポンと叩いた。
軽いやりとりに微笑ましいなと見ていると、謙信様が大げさに反応して刀に手をかけた。
謙信「信玄っ、何をするっ!?」
これには隣に座っていた私を含め信玄様も呆気にとられた。
幸村「どうしたんですか。そのくらいいつものことでしょうに」
謙信「そのくらいではないっ!
ここに舞を仕舞っている。潰れたらどうしてくれる!?」
(そっか、わたしのぬいを胸元に入れてたんだ!)
謙信様は私が言ったとおり、ぬいを私だと思って持ち歩いていた。
しかし汚れてはかわいそうだと、いつも着物の下に隠すようにしているから、誰もぬいの存在を知らない。
それゆえ謙信様の言動に誰もが疑問を覚えているようだった。
幸村「はぁ?何言ってるんですか、舞なら隣に居るでしょうに。
もう酔ったんですか?」
兼続「舞、謙信様の手を握ってさしあげろ」
「え?…」
幸村も兼続さんも謙信様が酔っていると勘違いしている。
手を握ったところで解決にならない。ぬいが叩かれたということは、私が叩かれたも同然。
ぬいを私だと思っている謙信様は怒り心頭だ。
「謙信様、大丈夫、痛くなかったですよ」
謙信「っ、だが!」
「大丈夫ですってば」
説得していると、またしても周りの人達は『???』という顔をした。
義元「なんで謙信の胸が叩かれて、舞が痛くないって話になるの?」
「え、えーと……一心同体というか…」
推しぬいの話をせずに説明するのは難しい。
佐助「感覚共有してるってこと?」
(うぅ、お願いだからそんなに異次元の発想で目を輝かせないでよ~!
ただの推しぬいの話なんだってば!)
焦っていると、広間に入ってきた女中さんが私の元へやってきた。