第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
謙信「天井裏で佐助と汗をかくようなことをしたのか」
この言い方…すっかりいつもの謙信様だ。
「天井裏を移動するのは大仕事だったということです!
春日山城の天井裏はこりごりです」
謙信「俺の部屋に近づく程に罠は増え、複雑な構造になるからな。
よく来たと褒めてやろう。
だが汗をかいたおかげで佐助の匂いがお前に移ってしまった」
「今は謙信様の香りがします」
謙信「いいや、佐助の匂いがする。
軍神の恋仲に匂いをつけるとは佐助め…。
あの忍び服には舞の汗と香りが染み込んでいる故、燃やしてくれる」
「え!?勿体ないですよ。佐助君は善意で貸してくれたのに」
謙信「あの着物を佐助が着ると思うと、八つ裂きにしたくなる」
「あ、はい…わかりました。
燃やしてください」
通常営業に戻った謙信様は、こうなってしまってはどうにもならない。
(佐助君、わざと謙信様が怒り狂って部屋から出てくるようにしたのかな。
だから私に忍び服を着せて、天井から落としたのかも)
きっとそうだ。
流石謙信様のことをよくわかっている。
謙信「湯殿の準備はまだか…」
「まだ5分も経っていませんよ。
500年後の給湯器でも無理です」
羽織の下の自分の匂いを嗅いでみる。
(ほんとだ。なんとなく煙玉とか薬草みたいな匂いがする)
いつも佐助君が常備して持ち歩いているから、それが佐助君の匂いとして定着している。
意味もなくフフと笑っていると強烈な視線を感じた。
(ん?)
ズイと身体を近づけられてたじろいだ。
謙信「佐助の匂いがそんなに良いか?」
「ち、違います。この羽織から謙信様の香りがするな~なんて…」
美しい目に宿る危険な光に、嫌な予感がした。
謙信「匂いを落としてからと思ったが……」
謙信様の手が伸びてきて予感は確信に変わった。
(うわわ!?まずい!)
前身頃を掴む手に力を込め、わざとらしく震えてみせた。
「う、さ、寒いですね!すごくっ!
羽織ごと抱きしめてください。
寒くて風邪をひいてしまいそうです!」
コホンコホンと咳をしてみれば、羽織の内側に潜り込もうとしていた手がピタリと止まった。
謙信「可愛いお前が風邪をひいたら困る」
謙信様はそう言って、渋々私を抱きしめてくれた。