第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
どさっ
衝撃の後に、受け止めてくれた力強い腕を感じた。
「う……死ぬ…」
謙信「舞、大丈夫かっ!?」
血相を変えた声に目を開ければ、直ぐそこに謙信様の姿があった。
(よ、良かった、助かった……?)
(あ、謙信様だ…)
助かったのと、目の前に謙信様が居るのとで泣けてきた。
………
…
(めっちゃくちゃ怖かったんですけど!佐助君!!)
もちろん謙信様に会えて感動してる。
でもそれよりも先に恐怖、驚愕だ。
なんの予告もなく高いところから落とされて、あの恐ろしい浮遊感といったらない。
青ざめて震えている私を見て、謙信様に怒りの色が浮かび上がった。
謙信「佐助っ、この借りはあとで返してくれるっ!」
鋭い視線には殺気がこもり、天井板を刺し貫いてしまいそうだった。
佐助「部屋から出てきてくれたら、いくらでもお相手しますよ、謙信様」
謙信「減らず口を。さっさと行けっ」
天井板が元通りになり、佐助君の声がしなくなった。
部屋は静まり返り、謙信様は冷えきった目で私を見てくる。
先程までの激情を一瞬にして収めたようだ。
謙信「何をしに来た。
誰にも会いたくないと触れを出しておいたが?」
この間まで廊下でばったり会っても嬉しそうにしてくれたのに、真正面から拒絶されて胸が痛んだ。
ほんとはこうして顔を合わせれば、いつものように接してくれんじゃないかって期待してた。
謙信様はいつだって私に無償の愛を注いでくれたから…。
(甘かった……)
『それは気づけば手の中にある時があります。
失くして気が付くことも多いですが……』
(私はまだ謙信様との幸せを失くしていないよね)
きゅっと握りしめた拳の中に、まだ幸せはある。
今はそれがなくなったように感じているだけだと思いたい。
「謙信様に謝りに来たんです」
謙信「なんのことだ」
「あの日は早くお仕事が終わって私を探してくれていたと聞きました。
散々探させておいて誤解させるようなことをしてしまって、本当にごめんなさい」
抱っこの体勢で頭を下げると、謙信様の着物が右頬に当たる。
温もりを帯びた着物の感触が愛しくて、そのまま触れてしまいたかった。
謙信様は応えてくれず沈黙が続いた。
このくらいの謝罪では許さないと思っているだろうか…。