第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
針子「それは気づけば手の中にあることもあります。
失くして気が付くことも多いですが……」
「あ………」
閃いて一番に思い浮かんだのは謙信様。
そして佐助君、信玄様……安土の皆と、次々に浮かびあがった。
答えは大事な人、なのかと思ったけど、ヒントを並べていくと違うと気づいた。
「幸せとか、楽しさ、ですか?」
たどり着いた答えを口にすると、針子のお姉さんはしっかり頷いた。
針子「正解です。このような世だからこそ、私は幸せに、楽しく生きたいと思っております。
命が軽く扱われ失われていく世ですが、悲しんで下ばかり向いていては、幸せは得られないと思うのです」
この人の家族は去年、争いごとに巻き込まれて全員亡くなったんだったと思い出した。
惨い経験をした人の言葉は心に迫る。
針子「人は後ろ向きになる要素をわざわざ探しがちですが、私は自分が迷った時、幸せに生きるためにどうしたら良いか考えるようにしています」
「幸せに生きるために……」
現代に居た頃は『幸せになりたい』という気持ちは希薄だった。
そう願わなくとも人並みの幸せを手に入れられるだろうと、なんとなく、ぼんやりそう思っていた。
でも戦国の世に来てからは、幸せの尊さがよくわかる。
(そうだ………。こんなくだらないことで謙信様のお傍を離れていちゃ、いけないんだ)
針子「心の持ちようですよ、姫様。
大事になさってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
方向が定まり、萎んでいた気持ちが膨れ上がった。
その気持ちのまま針を持つ手を動かすと、作業がするすると進んだ。
(早く謙信様に会いたい)
一心不乱に針を動かしながら気持ちは謙信様のところへ向いていた。