第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
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視察を早く終えた謙信様が、あの日ずっと私を探し続けてくれたのを知ったのはあとの事。
きっと早く終わったから一緒に過ごしたいと思ってくれたに違いない。
そんな謙信様の気持ちを知らず、帰ってきた謙信様の前でやらかしてしまったのだ。
手袋にお茶をかけて出かけたのも、
謙信様が視察から早く帰ってきたのも、
兼続さんの会話を聞かれたのも、
「タイミング悪すぎる~~……」
あの日以来謙信様は私に会ってくれなくなった。
(謝ろうにも取り次いでもらえないし……どうしよう)
このまま自然消滅になるかもしれない。
ぐすんと鼻を鳴らすと、隣で仕事をしていた針子仲間が声をかけてくれた。
針子「姫様、どうしたのですか?」
「う、ううん。
なんでもないです。なんでもない……」
不自然に言葉を繰り返したせいで、かえって何かあると思ったのか、針子仲間は針を持つ手を止めた。
針子「噂ですが最近、謙信様も気が塞いでいるようです。
もしやお二人に何かあったのですか?」
「喧嘩というほどのことでは……」
謙信様を空振りさせ、さらに紛らわしい会話で誤解させてしまったのはごめんなさいだけど、果たしてこれは喧嘩なのか私にもわからない。
伏せた視線の先には遅々として進まない縫物。
私情を挟んではいけないのに駄目だなぁとさらに落ち込んだ。
針子「姫様。今の世は日の本中に戦の火種がくすぶっている状態です」
「?…はい」
その通りだ。皆が必死に生きている中、安全な城に招いてもらって暮らしているのだからしっかり仕事はしなくちゃ。
叱られたと判断して聞く姿勢を取ると、針子の姉さんはクスっと笑った。
針子「叱っているのではありません。
私はこの激動とも言える今の世で、ひとつだけ叶えたいと思っていることがあります。
人の手によって奪われることもありますし、自分の心の持ちようで手に入りづらいものです。
なんだと思いますか?」
「ん~…少し待ってくださいね」
針子「一人でも手に入れられますし、二人でも、時には大勢でも手に入れられるものです」
「んん……?」
なぞなぞのように答えがぼやけている。
ヒントを元に悩んでいると、針子のお姉さんは寂しそうに笑って最後のヒントをくれた。