第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
「2つ買ってきたので1つお試しにどうぞ♪
兼続さんは通常のお仕事の他に、誕生日の宴の準備で忙しいでしょう?
眠気を感じた時以外にも、気分転換したい時にも良いらしいです」
兼続「……スーッとするというのは危ない薬じゃないのか」
紫の目が、不審な物を見るかのように細められた。
「そんな危ないものを兼続さんにあげるわけがないでしょう?」
兼続さんが容器の蓋を開け、慎重に匂いを嗅いでいる。
兼続「薄荷の類だな」
「そうそう!ハッカ!
こういうスースーした匂い、兼続さんは好きですか?」
兼続さんは容器の蓋をキチっと閉めると静かに頷いた。
兼続「好きだな」
「良かった。私もすごく好きなんです」
『気分がシャキッとしますよね』と続くはずだった言葉が、物騒な音で遮られた。
それは……ここで耳にするはずのない、鞘から刀を引き抜く音だった。
(え……今の音って……?)
背後から聞こえた音にびっくりして振り向くと、そこには仁王様のような顔をした謙信様が立っていた。
「謙信様!?いつお戻りになったのですか?
というか何故そんなに怒っているんですか!?」
謙信様の姫鶴がギラギラと冷たく光り、本気で斬られそうだ。
『え?え?』とパニックを起こしているところに、兼続さんが割って入ってくれた。
割って入ってくれたというのは少しおかしくて、謙信様の怒りは最初から兼続さんに向いていた。
(うぅ、兼続さんはよくこんな謙信様の前に立とうと思えるな…)
謙信様の怒気にあてられて縮こまった私とは違い、兼続さんは普段通り堂々としている。
兼続「謙信様、申し開きをお許しください」
謙信「……言え」
兼続さんは片膝をついて頭を下げた。
刀を持った謙信様に白いうなじを晒している。