第29章 ぬいと私~愛の告白は大声で~(謙信様:誕生祝SS2024)
謙信「義元、舞と一緒に居たのではないのかっ!?」
義元は『ん?』と首を傾げた。
義元「もう帰ってきていたんだね、謙信。
彼女なら城に送ってきたよ」
謙信「…今日一日、どこへ行っていた」
義元「それは言えない。
けど謙信にやましいことは一つもしていないよ」
湖面を思わせる穏やかな笑みをぎっと睨みつけた。
謙信「舞と共に歩き、どこへ行ったか明かさないのは全てやましいことにあたるが?」
(他人の価値観などどうでも良い。
俺の判断基準では、義元の行動は全てやましいことに当てはまる)
姫鶴に手を伸ばすと義元は鉄扇をハラリと開いた。
刀をさしていながらわざわざ鉄扇を出したということは、争う気はないということか。
忌々しいと思わず舌打ちした。
義元「恋仲の想いを無駄にしたいなら、教えても構わないけど?」
謙信「……どういうことだ?」
義元「そのまんまだよ。
舞が謙信を想って動いていたから俺は少しだけ手助けしてあげただけ。
彼女の意思を確認せずに、その内容をばらして欲しいと言うなら教えてあげる」
懐の浅さを指摘されたようでいささか耳が痛い。
(俺のことを想っての行動ならば、悪戯に探るのはよすべきか…)
知らぬところで秘密を暴かれては舞も気分が悪いだろう。
頭の冷静な部分はそう言っているが、知りたい衝動が暴れている。
(舞のことなら、すべて知りたい)
愛する者を知りたいと思うことは悪いことなのか?
知りたいと思っても相手を尊重し、我慢しなくてはいけないのか?
世の男は、愛する女をどこまでも暴きたいとは思わないのか?
理性と欲望がせめぎ合い、納得できずに胸の内が焦げ付いた。
しかし…、
謙信「俺のためだったならば良しとしよう。
今日一日何をしていたかは聞かないことにする」
義元「うん、そうした方が良いと思う。じゃあね」
義元はこちらに背を向け去っていった。