第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
(勝つ必要はない…のか)
ふとそう思い立って、片膝をついていた足に力を込めた
(せめて対等に………立って、刀を交じえたい)
足の力を身体に移し、刀へと伝える。
じりじりと体勢を高くする私に家臣達から驚きの声が上がった。
謙信「………」
「………」
二つの刀を隔てて睨み合う。いや、睨んでいるのは私だけで、謙信様の目は何の感情もうつしていない。
余裕過ぎる態度に力量の差を感じて、余計に血が湧きたつ。
(女だからって、やる時は………やるんだから!!兄上の名誉のためにも!)
こんな時なのに『気持ち悪い』と言ったら情けない顔をしていた兄上を思い出した。
歯を食いしばって立ち上がる。
私の手はガタガタと震えていてこれ以上は何もできそうにない。
謙信「……その細腕でここまでできたのは上出来というべきか」
抑揚のない声はどこまでも冷ややかだ。
謙信様の刀がすっと引いていき、私は前につんのめりそうになった。
謙信「ならばこれはどうだ?」
刀を構える姿を優雅だなんて思った経験は一度もなかった。
けれど無駄のない動作は洗練されていて美しく、謙信様は両手で刀を握ると、二手、三手を放ってきた。
(ま、ず…い!!)
はっきり言って刀を受ける力はもうなかったので、ひたすら刀を避けた。
弄(もてあそ)ぶように刀は宙を突き、斬る。
狭い部屋だというのに、謙信様は器用に刀を振る。
(なんて綺麗な刀捌き………)
感動していると謙信様と目が合った。
(何から何まで綺麗な人……)
戦場でこの方に出会ったなら、斬られても…
(いや、斬られたくはないか)
なんだろう。感覚がおかしくなっているのかもしれない。
ちょっと楽しい。