第1章 日ノ本一の…(上杉謙信)(R-18)
謙信「鍛錬中に負傷するなど腑抜けた男だ。そのような男に俺の小姓が務まると思うか?
お前の兄もさぞかし優男(やさおとこ)なのだろうな」
「城にあがる大事な時期に負傷したことは兄の不徳と致すところでございます。
しかし兄は私とは似ておらず、優男ではございません。幼き頃より毎日剣術の稽古をし、お勤めもしっかりとできるかと……」
謙信「もう良い」
煩わしげに言葉を遮られた。
一度も合わないうちに兄上の評価を優男にされてはたまらないのに、弁解さえできない。
「ならばお世話になっている間、兄が優男ではないと証明しましょう。兄は私よりも剣の腕が立ち、仕事もできますので」
私の目一杯の仕事を見てもらい、兄はそれ以上だと思って貰えれば立場を守れる、そう思った。
家臣1「無礼な…」
家臣達が騒めいたのを静かにさせ、謙信様が部屋に入ってきた。
私の言葉なんて無視して行ってしまうだろうと思ったのに、謙信様は何を思ったのか私が居る部屋の中に入ってきた。
(どうしたんだろう)
そう思った瞬間にゾワリと全身の毛が逆立った。
髪を短く切って露わになっている首筋がチリチリした。
それは……危険を知らせる動物的本能だった。
謙信「ならば今すぐに証明しろ」
「っ!」
ガッ
目の前で鞘に納まったままの私の刀と、謙信様の抜身の刀が交差している。
(すごい力………)
私は座っていて、謙信様は立っている。
上から降り降ろされた刀を受け止め、不利な位置に居るにしても、受け止めるのが精いっぱいで押し返せる気がしない。
圧倒的な力の差に僅かずつ近づいてくる刃(やいば)に息を詰める。
謙信様がその気になれば難なく押し勝てるだろうに、それをしない。
(弱い者を嬲る気かしら…なんて、いやらしいことを…)
容赦なく叩きのめされた方がマシだけど、それでは兄上の面目がたたない。
(どうにか……ならないの?)
重い一撃をくらっただけで両の手が震えている。
謙信様を相手に何度も打ち合えない。
(不意をつくしかないけど、軍神と呼ばれる方に小手先の策なんて…)
悔しい
このまま打ち負けたくない