第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
賑やかな城下を逢瀬するはずが、私達が歩くと賑やかさは嘆き声に変わった。
寄ろうとした練香水のお店には女性客がたくさん居たから、嘆き声は悲鳴のようで中に入るのは断念した。
そうやって何件ものお店を通りすぎ、やっとたどり着いたのは、光秀様に力を貸して欲しいと依頼された茶屋だった。
あの日と同じ席について、は~~~~~と息を吐いた。
光秀様はここで良かったのかと疲れた様子もなくお茶を注文している。
「光秀様、どれだけ人気があるんですか。
嘆き声とむせび泣きしか聞こえなかったです」
光秀「俺だけの声じゃないだろう。
お前の人気も相当なものだったが?」
「そうでしたか?私は女の人の声しか聞こえませんでした」
光秀「……お前の目と耳は作り物か」
「はっ?」
気分が悪くなってしゃがみ込んだ女性も大勢目撃したし、ワクワクしていた気持ちは罪悪感で塗り替えられた。
こんなことなら本当に寂しい野原に出かけた方が楽しめただろう。
「こっそり付き合うことにしますか?」
光秀「何故人の目を気にして隠れなくてはならないんだ?」
「だって…泣いている人を見たら、なんだか胸が痛くて」
光秀様に避けられていた数年間。
もしその間に光秀様に恋仲ができたと噂を聞いたら、もしくは目撃したら…
きっと私も泣いてしまっただろう。
光秀「隠れて付き合う方が不義理な行いだろう。
堂々と付き合っていた方が俺とお前を慕っていた人間は望みがないと踏ん切りをつけられる」
「そうかもしれないですけど…。
はぁ、とてもじゃないですがこれ以上嘆きの声を聞くのは嫌です。ここで食事をして帰りましょう」
むせび泣く声は山びこのようにあちこちから聞こえてきて、逢瀬を楽しむ気にならない。
光秀様の人気がここまでとは、私もあなどっていた。
光秀「城下を歩いて四半刻もたっていないのに、もう帰るのか」
「だって…」
ぎこちなく返答し、出された湯飲みに口をつけた。
せっかく綺麗な格好もしたし、もっと光秀様と一緒に歩きたい気持ちはあるけど、これ以上は女性の泣き顔を見たくない。
光秀「仕方ない、舞がそう言うなら帰るとしよう」
「………今日はこのまま家に帰りますからね?」
御殿に連れて帰られそうな雰囲気にくぎを刺した。