第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
光秀「そして2年前だったか、茶屋の近くで女が一人行方不明になったのを知っているか?」
「はい。未だに見つかっていませんよね。人攫いとも神隠しとも噂されていますが」
光秀「目撃者がいる。人攫いだ。
だが取り逃がし、逃走中に女は殺害された。
それ以来茶屋付近には人知れず厳戒態勢を敷いている。
信長様にはそろそろ警戒を解けと何度か言われているが、そのままにしている」
(あれ?この件に関してはいつもの光秀様だ。
でも流石に2年はやりすぎのような…)
かたや詰めが甘く、かたや徹底が過ぎる。
こんなムラのある仕事をする人じゃなかったはずだ。
「昔、茶屋付近は治安が悪かったと聞いていたのに最近は全然なのでおかしいなと思っていたんです。
そういう事情があったんですね…」
光秀「攫われた娘はお前と同じ齢だった」
「……そうですか」
特に重要でもない追加情報だったけれど、私の齢を引き合いにだされて胸がざわついた。
人攫いの事件に私は全く関係ないし、攫われた娘の年齢が一緒だからなんだというのか。
たった一度仕事を手伝っただけの女と、人攫いの件を重ねたとでも言うのだろうか。
光秀「あと舞が登城する日は必ず天主に張り付いていろと秀吉に命じておいた」
「え、光秀様が命じたことだったんですか?」
光秀「ああ」
(まさか二人きりにならないように配慮してくれたの?)
何で秀吉様が天守を見張っているのか、あの信長様さえ首を捻っていたけれど光秀様がしたことだったとは。
「信長様はとても嫌がっておりましたよ」
光秀「だろうな。秀吉に張り付かれて嬉しいやつなんて居ないだろう」
「秀吉様なら城下の女性に大人気ですので、嬉しいと思う方がたくさんいらっしゃると思いますが」
光秀「それもそうか。俺ならば一生ご免こうむりたい」
「まあ…ふふっ」
軽口を言い合っている間も、目を丸くして吹き出した時も、実のところ光秀様の行動の意味を考えていた。
秀吉様の領地で騒ぎをおこしてまで聞き取り調査を妨害したのは、本当に私や職人達に証言させる煩わしさを取り除くためだったのかもしれないと。
おかげで私は思い出したくもない事件を思い出さずに済んだ。