第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
光秀「あの事件から少し経った頃……」
それは何も知らずに働いていた私が初めて聞く内容だった。
光秀「同じような薬が再び町に流れはじめ、信長様は事件の残党を洗うように命じられた。
和菓子職人に交じって媚薬の作り方を知っている人間が居ないか、店で働いていたという娘も一人残らず調べろとな」
「同じような薬が?それは知りませんでした。
けれど私や職人達も、お役人に調べられたことはありませんでしたが?」
光秀「それはそうだ。俺が必要ないと忠言し、それでも取り調べを決行しようとした秀吉の邪魔をしてやったからな」
「秀吉様の邪魔を……」
何故そんなことをしたのだろう。
私も職人達も取り調べを受けたとしてもシロだ。多少時間をとられても無実を明らかにするためならしっかり証言するのに。
光秀「お前をはじめ、職人達の身元は事件前後に詳しく調べた。
仕事が良い方向に向いている時に、思い出したくもない事件を掘り起こされては気を削がれるだろう」
「…そうですね……?」
(おかしいな。以前は無慈悲なくらい徹底した仕事をしていたのに…)
『細かいところまで調べろって、いつもうるさいんです』
九兵衛様が愚痴を言うくらい徹底していた人が、この件に関しては詰めが甘い気がした。
光秀「あまりにも秀吉がきかないものだから、余計な手間を取らせるくらいならばと、秀吉の領地で騒ぎを起こして目を逸らさせた」
「…あなたって人は、味方にそんなことをして良いのですか?
秀吉様の領地で騒ぎを起こす方が手間がかかる気がします」
そう言っても光秀様は鼻先で笑っただけだった。