第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
「夜に映える着物があれだけだったので特に意味はありませんでした。
私は着物の贈り主に気のあるフリは全然しませんでしたし、どうしてそう思われたのでしょう」
光秀様は掛けてある着物を横目に小さく吹き出した。
光秀「上等な着物に何もないはずがないと舞の様子を、表情や視線、声色まで注意深く見ていたはずだ。
そしてあの方は確信を得た……恐ろしく頭が良い方だからな」
(なんで知らないふりをしてくれないの、光秀様)
言葉逃れも限界にきているのに、光秀様は容赦ない。
「信長様だって心の中を覗けるわけがないんですから、ただの勘違いってこともあるでしょう?
それとさっきから気になっているのですが…」
光秀「なんだ?」
光秀様が信長様を褒める度にどうにも不快感があった。
「光秀様だって恐ろしく頭が良い方じゃないですか。
信長様にだって負けてないと思います」
光秀様が劣っているような言い方は悔しい。
光秀「俺の肩を持ってくれるのか?」
「そ、そういう意図はありません。
ただ光秀様の長所をちょっと褒めてみたくなっただけです」
光秀「それはありがたい」
眼差しは柔らかいのに口調がそっけないとか、よくわからない人だ。
「ありがたみの欠片も感じてませんよね?」
光秀「感じているとも、少しな」
光秀様は銀糸を無造作にかきあげ、完全に私の言葉を流しにかかている。
「もう…凄く褒めたつもりなのに」
お互い確信に触れそうで触れない、もどかしい会話だ。
私はさっきから好意を否定しているけれど、もう感づかれてしまっているだろうし、これ以上の追及は耐えられそうにない。
いきなり開き直って『約束を破ってごめんなさい。ずっと好きでした』と言えば、少しは光秀様の裏をかけるだろうか?
(でも…光秀様の気持ちは?)
信長様の左腕として、私に妾になるように強く勧めてくるはずが、夜伽を回避する案を提示してきた。
仕事を放棄して私を助けようとしたのは何故か。
信長様が面倒と言ったのはどういう理由なのか。
その辺を聞きたくて見ていると、光秀様は少し黙り込んだ後、事件後の話をしてくれた。