第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
――――
嫌なことから全部解放されたような高揚感と気持ち良さ。
お酒が呼びこんできたそれらに身を任せて眠った……はずだった。
ツン
熱を持っている頬をつつかれた。
「ん…」
ツンツン
(うるさい…)
ツン……ぶにゅ
頬をつついていた指が弄ぶようにして頬の肉を摘まんだ。
「ん~~~」
誰がとか考える前に、やめて欲しくてしかたない。
フワフワの雲に横たわっているようで気持ちいいのに。
(あー、気持ちいいなぁ)
酔いのせいで誰かにつつかれていることをすぐに忘れて寝入りそうになった。
ブニ
ところが頬を掴む指は離れず、最初は片頬だけだったのが両頬を摘まれてしまった。こうなると流石に眠れず、私は眉間に皺を寄せて不快を示した。
「ん、ん……」
人がこんなに気持ち良く眠ろうとしているのに、なんでこんなことをするんだろう。
文句を言ってやりたり気持ちはやまやまだが瞼が重くて上がらない。
辺りは暗く、静かなところを察するにまだ夜は明けていない。
フニ
片方の手が頬肉を掴むのをやめて鼻をつまんできた。悪戯ではなく明らかに私を起こしにかかっている。
普通に起こしてくれれば良いのに、なんと質の悪い起こし方だろう。
「ム~」
苛立ちまぎれに唸ると、寝ている傍で誰かが吹き出した。
クスクスと笑っているのは男性のようで、最初は九兵衛様なのかと思ったけれどすぐに違うと否定した。
九兵衛様は時々悪戯めいたことを口にするけれど、行動といえば礼儀正しくて相手を尊重してくれる。寝ている女性に悪戯するような人じゃない。
私が酔って眠っていたなら、そのまま寝かせてくれそうな人だ。
となると今、私を悪戯している男性は誰?ということになる。
?「気楽なものだ。九兵衛ではないが信長様に食われたかと肝を冷やしたというのに」
冷ややかな低音の声は、鼓膜に届くまでに温かく甘やかに変化した。
この一声で気持ちが満たされるのはどうしてだろう。
(ああ…わかった)
今更気づいたけど鼻孔をくすぐる冴え冴えとした香りは、あの人のものだ。
「み、つひで様……?」
目を覚ましたいと強く願うと、意識はゆっくりと浮上した。