第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
信長「そのようだな。だが贈った男にそれを見せるのではなく俺に見せるとは、貴様も噂にたがわぬ罪な女だ」
「噂……ですか?」
信長「知らぬのか?貴様は光秀と同様、惚れれば地獄と言われているそうだが?」
光秀という名前に反応しないよう努めた。
自分に不利になる感情を隠すのは、幼い頃から慣れっこだ。
「その噂でしたら知っております。好意を抱いてくださるのは嬉しいですが、私はどの殿方にも応えるつもりはないんです。
とにかく、この着物を報酬でくださった方とは夜にお会いする仲ではございません」
視線を落とすと私の体を美しく覆っている着物が目に入った。
あの夜を戦い抜いた着物は、鎧をつけられない女の私が身に着けられる精一杯の防具だった。
光秀様と私の関係が幻ではなかったという唯一の証拠。
信長「まことに面倒な者達だ。着物のことはもう良い。酒を飲め」
ため息を吐いた信長様に『何が面倒?』と聞く暇を与えられず、徳利を差し出された。
差し出した盃になみなみと濁り酒が注がれた。
「お酒を飲んだことがありません…」
信長「その齢でか?」
盃を凝視する私に信長様はくくっと喉を震わせた。
お酒を嗜む横顔は精悍そのもので、どうしてこんな素晴らしい方と席をご一緒しているのか甚だ信じられない。
信長「米の香りがついた水と思えば良い」
視線で促されてチビリと一口飲んだ。
まろやかな甘みが口内に広がり、コメの香りが鼻を抜けていった。
(あれ?お酒ってこんな感じなんだ…意外と平気かも)
盃をぐっと傾け、全部飲み干した。