第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
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城に呼び出された時の習慣で、金平糖を買ってから安土城にあがった。
言われなくても買ってきた金平糖を見て、信長様が小さく笑ってお酒を口に運んでいる。
文机の前に座って書状を呼んでいる昼のお姿ばかり見ていたので、夜空を背景にお酒を飲む姿は妙に色気があった。
開け放った窓の傍に腰かけ、信長様は黒い髪を風に自由にさせている。
いつにもまして艶やかで機嫌良さそうな信長様に対して、私は焦燥で身を縮めている。
(夜伽なんて嘘よね。夜通しお話したいってことだよね?)
今夜は秀吉様も三成様も控えておらず、完全に二人きりだ。
年頃の男女が夜にすることなんて一つしかないのに、違って欲しいと一縷の望みをかけていた。
信長「舞、貴様もこっちに来て飲め」
「っ、は、はい」
緊張していたところに話しかけられ、正座しながら飛び上がりそうになった。
とは言うものの、私はお酒を口にしたことがなかったので、とりあえずお酌をしようと信長様のお傍に向かった。
慣れない手つきで徳利を持ち上げたところで、信長様の視線が着物を褒めてくれた。
信長「今宵はめかしこんできたな。
着物も帯も良い品だ。誰かからの贈り物か?」
夜伽のために張り切ってお洒落をしてきたように思われるのは不本意だ。
「……とある方に報酬としていただいた品です」
信長「報酬?」
わざと信長様の気を削ぐような言い方をすると、意外な答えだと信長様が盃を置いた。
信長「その報酬としてもらった着物を今宵選んだのは何故だ?」
「特に意味はございません。
ただ夜に映える着物がこれだけでした。使われている糸が……よく光りますので」
柄を縁取る上質な糸が、部屋に差し込むわずかばかりの銀光を煌びやかに跳ね返している。
信長様はおもむろに目を細めた。