第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
姫「舞さんもそう思う?他の人に言っても全然信じてくれないの!」
「きっと姫様にだけ見せている表情なのかもしれませんよ」
姫「舞さんも見たなら私だけじゃないよ。
うーん、お仕事抜きの相手だから見られるのかな」
「そうかもしれないですね」
姫「でも噂が当たってなくて少し残念だな。
舞さんが信長様の恋人なら良かったのに」
恋人というのは恋仲のことだろうかと、勝手に解釈させていただいて否定した。
「恐れ多いことです」
姫様の口の端っこにまた大福の粉がついていたので、今日は居ない三成様のかわりに口元を拭ってあげた。
舞様が顔を真っ赤にして『恥ずかしい…』とお礼を言っている。
姫「舞さんはお姉さんみたいだから、同じお城に居てくれると良いのにな。
信長様が好みじゃなければ、秀吉さんと付き合ってみるのはどう?」
立派な武将である秀吉様を軽い口調でどう?と言われても困ってしまう。
町娘にすすめる相手にしては格が違いすぎる。
「いえ…そのような過ぎたことは考えておりません」
姫「美人なのにもったいないよ。
でも舞さんには秀吉さんっていうよりも光秀さんとお似合いな感じがする!」
「え……」
武将とは身分が違うだのアレコレ考えていたところに知った名前があがり、頭が真っ白になった。
姫「光秀さんに会ったことある?すっごい意地悪なんだから。
舞さんって少し秘密めいたところがあるから、光秀さんと雰囲気が似てるの。すごく気が合いそう!」
「光秀様は頭脳明晰で信長様の天下統一に大変貢献された方だと聞いたことがあります。
茶屋の娘に恋仲はつとまらないでしょう」
会ったことがあるないには返事をしなかったけれど、手に持っていた粉のついた手ぬぐいが汗で湿った。
似合いだと言われて一瞬嬉しいと思ってしまったことさえ罪のように感じる。
忘れるから抱いて欲しいとお願いしておきながら、忘れられずにいるのだから…。
(過ぎたことなのに)
少し引きずっているだけ、そう思おうと日々努力している。