第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
信長「そこの娘、ここに来い」
え、と周りを見渡せば娘と言えば舞しか居ない。
家臣たちの中央で、一層威厳のある男性が舞を真っすぐに見据えていた。
(この方が信長様…?)
「はい、ただいま!」
近づくたびに信長から受ける圧力が増していく。
鷹狩りの帰りなのか身軽な装いをしているが、他の家臣の人と比べても雰囲気が普通ではない。
(不興を買うようなことはしていないけど、信長様は時々非道なことをされると聞くし、咄嗟の時は身を守らなくては…)
身を守るにはあまり役立ちそうにないお盆を抱きしめて深く頭を下げた。
「舞と申します。お呼びでしょうか?」
信長「姫がここの大福を気に入っている。店に残っている分を包んでこの男に渡せ」
信長は隣に控えていた男性に目配せすると、その男は心得ているようで小さく頷いた。
不興を買ったのではなく、お土産の注文だったかとお盆を抱く舞の力が緩んだ。
「すぐにお包みしますね」
そういえば一昨日三成が来店して『夏の疲れで姫様が体調を崩してしまいました』と大福を買っていったばかりだ。
「あのっ、姫様の具合はどのような?」
大福を渡す際に姫の体調を訪ねたが、家臣は警戒を露わに答えなかった。
舞が肩を落としていると意外にも信長が窘(なだ)めてくれた。
信長「いらぬ警戒をするな。
姫がここの娘とは顔見知りだと言っていただろう」
秀吉「ですが…よからぬ情報を流されては困ります」
信長「あやつが熱を出して臥せっただけで世の中になんの影響がある?
娘、姫はただの夏風邪だ。熱が高くて消耗しているが甘味は食べられるとぬかしている」
力強い眼差しが舞に向けられた。
「まあ、そうだったんですね。では姫様にこれを…」
舞は飴売りから買った金平糖を袂から取り出した。
真っ白な金平糖の他に、緑や桃、黄といった色を付けた金平糖が混ざっている品だ。
珍しくて買ったが姫様が体調を崩しているならお見舞い品にしよう。そう思い立って信長に差し出したところ、横から手が伸びてきて奪い取られた。
「あっ…」
金平糖が入った小瓶を目で追った先で、厳しい表情の秀吉に睨まれた。