第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
九兵衛「私が留守にしている間、他の男に靡いたら承知しませんからね?
その時は奪い返しに行きます」
一瞬、整った顔に物騒な狂気が浮かび上がり、舞はそんな必要はないと微笑んだ。
「そんな怖い顔をしなくても大丈夫です。どんな方が来ようと靡きません」
九兵衛「へえ…。どんな方が来てもですか?」
意味ありげな視線を投げられて舞は自信満々で頷いた。
「ええ、もちろんって、あら……?」
舞の視線の先に立派な一行が現れ、そのうちの一人が『店はまだやっているか』と聞いてきた。
「はーい!ただいま参ります!
九兵衛様、ごめんなさい。お客様のようです。
ゆっくりしていってくださいね」
九兵衛「いえ、私はもう行きます。お代はここに置いていきます」
「あ!おつりっ!」
置かれた金額の多さに舞が声を掛けると、九兵衛はいらないと首を振って去って行った。
遠方から帰ってきたというが、疲れを見せずにスタスタと歩いていく。
「もう、九兵衛様ったらいつも多く置いていくんだから」
後で返そうとしても受け取ってもらえないのはわかっているので、舞はありがたく受けとった。
こんなところも主従は似てくるものだろうかと考えながら、武家と思われる一団に歩み寄った。
全部で20名ほどの人数で、あっという間にお店の椅子は埋まってしまった。
家臣「茶と菓子を人数分頼む」
「かしこまりました」
大量注文に対応するため、店に残っていた人間が総出しての対応になった。
売り子が店にある分の急須を全部出し、それぞれに茶葉を入れていると、店主が慌てた様子で外に出て行った。
「まあ、店主が自ら大福を運ぶなんて…」
舞が驚いていると、隣に居た売り子が興奮した様子で囁いた。