第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
あの事件以降、光秀のはからいで舞と菓子職人達は新しい店に移った。
菓子職人達には取り締まりがあった次の日に『店主は悪事で捕まった』と突然の閉店を伝えられた。
戸惑う職人達の前に新店を出すという男が現れて、そのまま職人達は世話になることになった。
舞だけは光秀のはからいだとわかっていたが菓子職人達は何も知らずに新しい店主の元で働いている。
新しい店主は仕事に真面目な人間だったし、京の和菓子店で働いていたという熟練の職人達が新たに加わった。
待遇や人間関係も良く、舞達は新しい店にすんなりと馴染むことができた。
人気の大福は熟練の職人達によってさらに美味しさに磨きがかかり、急に女をあげた看板娘が話題となって大評判になった。
「ふう。そろそろ店じまいの準備しなくちゃ」
日が傾いてきた頃合いで、舞は額に浮いた汗をぬぐいつつ後片付けを始めた。
まだまだ暑いが、夕暮れの時間は日に日に早まり、秋の足音を感じさせる。
(今日も大福がたくさん売れて良かった)
美味しいと言ってくれた客の顔を思い出し、舞の胸は幸せでいっぱいだった。
?「すみません、もうおしまいですか?」
聞き覚えのある声に舞の顔は輝き、声の主を振り返った。
「まあ、九兵衛様じゃありませんか!
まだ大丈夫ですよ。お茶をお持ちしますのでこちらにどうぞ」
舞は小走りで店内に駆けていき、すぐにお茶を持って戻ってきた。
出されたお茶は緑茶ではなくほうじ茶で、小皿に乗っているのは人気の大福ではなく漬物だった。
九兵衛は出されたものを見て苦笑した。
九兵衛「すっかり舞さんに私の好みを知られてしまいましたね」
「ふふっ、だって何年もここに通ってくださっているんですから覚えない方がおかしいですよ」
舞は九兵衛の向かいの席に腰をおろし、手に持っていた盆を静かに置いた。
朝からずっとしていた襷掛けの結び目を解き、袂にしまい込んでいる。
仕事着は地味な色合いの着物だが、それがより舞の美しさを引き立たせた。