第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
――――
(第三者目線)
季節は一巡り二巡り、それ以上か、信長が天下統一を成し遂げ、安土城下は日ノ本で一番の城下町となった。
その端っこで今日も明るい声が響いていた。
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
客「茶と大福をひとつ」
「うちの大福は美味しすぎて1つじゃ足りないって、お客さん達は大抵2つ注文するんです。
甘いものがお好きでしたら2つ注文するのがおすすめですよっ」
明るい声でもう1つ進める娘は大勢の客を相手している割に、面倒そうにするわけでもなく明るくハキハキとして気持ちが良い。
新顔の客は照れた顔で頷いた。
客「じゃあ腹もすいているし2つ頼むよ」
「ありがとうございます!」
舞は他の客が帰った卓の皿を片付けて、店内に運びいれた。
「大福の注文、2つ入りました」
注文を伝えながら汚れた皿を洗い桶に入れる。
水の中でゆらりと揺れた皿が桶の底に沈むまでに、舞の手は既に布巾を掛けた菓子箱に伸びていた。
そこから大福を二つ皿に取り分け、湯飲み茶わんで冷ましたお湯を急須に注いでいく。
零れた湯はほんの数滴で、湯飲みの側面に雫が垂れる様子もない。
店主が京から仕入れている茶葉は急須の中で蒸されて爽やかな緑の芳香を放った。
「いい香り……」
急須を傾ければ無色透明だった湯は鮮やかな黄緑色に変わり、舞は上手く淹れられたお茶に満足そうにしている。
「今日は天気も気温も良いし、客の入りがいいわね」
売り子「ほんと!客足が途絶えないから休む暇もないわ」
店は猫の手を借りたいほど繁盛しており、卓の掃除をしてきた売り子は持っていた手ぬぐいを置いて汗を拭っている。