第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
九兵衛「舞さんが可愛すぎて止まらなくなりそうです」
九兵衛様は肘で身体を支えると、両手で私の頬を包んだ。
男の人にこんな風に言われたことはなくて、演技だとわかっていても胸が熱くなった。
九兵衛「本当にしてしまいましょうか」
「え…なにを?」
九兵衛「口づけです」
「そんな……ぁ」
心臓がバクバク鳴って、九兵衛様のわずかに開いた唇から目が離せない。
口づけを覚悟した――――その時だった。
裏口を乱暴に開ける音がして、私達はピタリと動きを止めた。
(光秀様が来たんだ!)
店主「な、なんだ?」
襖の向こうで狼狽えた店主の声がして、階下を伺っているような気配がした。
九兵衛「せっかくイイところでした主が来たようです。
残念ですが、これで私たちの役目は終わりですね」
九兵衛様は素早く布団から出て、安心でぐったりしている私に布団を掛けてくれた。
九兵衛「仕事のためとはいえ申し訳ありませんでした」
九兵衛様がすまなそうな顔で濡れた耳を拭いてくれた。
「い、いえ。私こそ余裕が全然なくて…」
九兵衛様は『それは男冥利に尽きます』と嬉しそうに言い、次の瞬間には顔を引き締め、襖を蹴破って出ていった。