第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
九兵衛「人の気配が近づいてきます。先程のように触れますのでお許しください。
声はお好きに出してかまいませんからね?」
「え!?あっ………ん」
すーっと背骨を撫でられて、口から変な声を漏らしてしまった。
(こんな声、恥ずかしいっ!)
両手で口元を覆うと『声を出していただかないと困ります』と小声でたしなめられ、両手の自由を奪われてしまった。
店主の気配がするたびに九兵衛様はニコニコした顔であちこちくすぐってきて、巧みに乗り切った。
「あっ……やん!」
首筋を絶妙な手技で刺激され、顔を真っ赤にさせているとクスクスと笑われた。
九兵衛「可愛らしい反応でしたね。ありがとうございます」
「うぅ、嫁入り前なのに……お嫁にいけない」
九兵衛様の濡れたような黒目が光った。
抜け目ない感じが光秀様を思い起こさせる。
九兵衛「では責任をとらなくてはいけませんね。
舞さんに奥さんになってもらいましょうか?」
(いつの間にか舞殿から舞さんになってるし、この人、さりげなく女性の扱いが上手いかも?)
「やめておいた方がいいと思います」
九兵衛「どうして?」
「……ガリガリで凹凸がないから」
私の髪に触れていた九兵衛様の手が止まる。
「髪に艶がない、化粧っけがない、色気もない、散々な言われようなんです。
一緒に居ても恥ずかしいだけですよ」
九兵衛「もしやそれは全部、光秀様が言ったのですか?」
唇を尖らせながら頷くと、九兵衛様は呆れたという顔をして息を吐いた。
九兵衛「まったく、年頃の女性に何を言っているんですかね。
あとで注意しておきますので気になさらないでください。一緒に居て恥ずかしいなんて思いませんよ」
「家臣なのに注意するんですか?」
九兵衛「しょっちゅうですよ。
普段は仕事のし過ぎだと注意することが多いです」
「ふーん……え、あっ、ん、んん!」
突然押し倒されて口を塞がれた。
九兵衛様の視線は襖の方を見ている。
つられて見ていると襖にぷすりと音がして穴が開けられて、間抜けっぽく店主の指らしきものが見えている。
(あのバカ店主、覗くつもりなの!?)