第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
男「無礼を働いて申し訳ありませんでした。ついさっきまで店主が聞き耳を立てていたものですから」
「え?あなた、誰?」
(店主を欺いたということは……)
男「しー……。声を低めてください。
名乗るのが遅くなりました。私は古川九兵衛と申します。
光秀様の部下です」
「う、嘘………」
さっきまでのイカレた振る舞いは演技だとでもいうのだろうか。
穴が開くほど見ていると、九兵衛様は照れくさそうにしている。
そうやって笑うと優しげな好青年に見えて、私の身体からフニャっと力が抜けた。
九兵衛「光秀様は顔が知られていますので、潜入役は私に任されました。
舞殿や店主からは見えなかったでしょうが、外で待たせていた従者が光秀様です。
『夜明けの頃に』というのは舞殿と接触が成功し、2階に居ます。という意味です」
「うそ……」
もう『うそ』しか口から出てこない私に、九兵衛様は優しく笑いかけてくれた。
九兵衛「今宵は私がお守り致しますから安心してください。
押し入れに隠れていてくださいと言いたいところですが、店主が不審に思わないよう、時々声をあげてもらいますがかまいませんか?」
「は、はい。そのくらいなら。でも私、何も聞いてなくて…」
衝撃的な事実を受け止められずにいると、九兵衛様は少し身体をずらして布団に肘をついた。
そして何がおかしいのかクスクスと笑いをこぼしながら、『失礼しますね』と断りをいれて頬杖をついた。
こうして見ていると九兵衛様の所作には庶民にはない優雅さがある。
店主の前では見せなかったから、使いわけしているに違いない。