第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
男「あなたを苛めているんですよ。ふふっ、可愛い方ですね」
くっくっと喉の奥で笑われて意味が分からない。
無理やり口づけされるかと思ったら手で口を塞がれるだけだ。
「ん!んん!」
(何がしたいのっ!?)
すぐに体を奪われずに済んだ安心と、意図がわからない不安が交互に襲ってきた。
男と言えば欲に駆られてというにはあまりにも余裕そうな表情をしていて、それがこの状況において酷く違和感を抱かせた。
男「おや、あなたは以前お見掛けした時よりも大分ふくよかになりましたね」
「……は?」
こめかみに血管が浮き出た気がする。
(光秀様といい、店主といい、なんでこの世には失礼な輩しか居ないのよ!?)
最初の二人はまだいい。少しは私のことを知っているから。
でもこの男は私にしてみれば初対面だ。そんな赤の他人にふくよかとか、いきなり言われて黙っていられるわけがない。
お腹の底からフツフツと怒りが湧き上がってきた。
「どうせ私を見初めたっていうのも嘘でしょうから、体系が変わったってどうでも良いんじゃないんですか?
惚れた女性が太ったから気が変わるようなクズ、私は一生好きになりませんっ」
男「おや、怒らせてしまいましたね。
誤解ですよ。そういう意味で言ったわけではありません」
しれっと男は言って、私の身体を確かめるように弄(まさぐ)った。
と言ってもいやらしい動きは皆無で、手のひらを当ててくるだけだ。
「なっ!?触らないで!」
男「ふむ、なるほど」
何を一人で納得しているのか、男は身をかがめて覆いかぶさってきた。
ついに唇を奪われるのかと身を硬くしていると、男は耳元で小さく囁いた。
男「あなたなりにおかしいと思われて厚着されたのですね」
囁かれた声に狂気の色はなかった。
(え?)
男を見ると、暗がりの中で静かに微笑んでいる。