第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
――――
敷かれた布団に下ろされてすぐに、襖まで逃げて取手に手をかけた。
思い切り横に引いた襖はガタンと大きな音を立てただけで開かない。
(本当につっかい棒していったんだ!)
焦りと絶望で冷や汗がにじみ出た。
この部屋の窓には格子がはまっていて飛び降りようにもできない。完全な密室に初対面の男との二人きりになってしまった。
客「逃げられませんよ。さあ、観念して私のものになってください」
「嫌よ!こないで!!」
背後に男の気配を感じてゾワッと鳥肌が立った。
男「抵抗しても敵わないことにお気づきでしょうに、諦めの悪い方ですね」
「ひゃっ!?いやぁ!」
後ろから回った腕にあっさりと掴まれ、布団まで引きずられていく。
男「もっと嫌がっても良いですよ。
あなたの泣き叫ぶ声にゾクゾクします」
「あっ!?」
どさっ
布団に肩を押し付けられて動けない。
長い前髪の向こうに見えるのは嗜虐心で輝く黒い瞳。
口元に浮かぶ笑みも、言葉遣いもきちんとしているのに、嗜虐的な目が印象を大きく変えてしまっている。
(この人、まともなじゃない!)
薬を買っていたし、もうすでに薬を何度も服用しているのかもしれない。
「だ、旦那様、おやめください!」
物凄い力で肩を押さえつけられ、体重をかけられて足も封じられている。
男「やめてと言われてやめる男は、どこにも居ませんよ」
「大人しくしろと言われて大人しくする女だって居ませんっ」
男「ふっ、気が強いんですね」
男の手が恐怖心を煽りながらゆっくり伸びてきた。
「い、いやぁ!んんっ」
何故か手で口を塞がれ、すぐに離された。
「んん!?」
抵抗して声をあげては口を塞がれ……離された。
(な、何をしてるの、この人?)
息苦しい合間に男を睨むと、形の良い唇が意地悪く吊り上がった。
鋭利な感じのする端正な顔に、ふと既視感を覚えた。
こんな笑い方をする人が近くに居たような気がするけど、頭が混乱している。
男から嗜虐の色は消え、笑うと鋭さが消えた。
こんな所も誰かに似ている。