第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
客「おや、逃げようとしたのですか?困った娘さんですね」
店主「このまま上に連れて行きましょう」
手首を掴まれ、強引に2階に引っ張られていく。
半ばまで登ったところで座り込んでみたけど、そのまま手を引っ張られ、酷く痛んだ。
「い、痛いっ」
店主「痛ければ歩け」
「嫌ですっ」
ここはどうしても踏みとどまらなくてはと、階段に手をついて抵抗した。それでも引っ張られ続け、腕と肩がミシミシと痛んだ。
客「こんなに抵抗をみせるとは、舞殿はどなたか好いた男でも居るのですか?」
階段にへばりつくようにしている私の上で、男2人が会話している。
店主「いいえ、とんでもございません。
昼も夜も仕事ばかりしている色気のない女ですよ」
ははっ、と馬鹿にしたように笑われて頭にきた。
「あなたがそうなるようにしたんじゃないっ!」
店主「どうにも娘の機嫌が悪くて困りますな」
「何が娘よ!このっ、人でなし!」
勝ち誇った顔で店主がにやけている。
私に不利な状況で何を言ってもこの男には届かない。
(悔しい……)
脳裏に浮かんだ人影を、首を振って追い払った。
こんな店で汚い仕事をしていた自分と、これから汚される自分と……あまりにも似合わない。
客「では遠慮なく貰い受けましょう。
なに、一緒に居れば情が湧くものですよ、舞殿」
「っ、ひゃ」
後ろに居た男が、私を軽々と抱き上げた。
これでは床に這いつくばって抵抗するという手は使えない。
「いやっ」
脛が露わになってもかまわないと、足をバタバタさせて抵抗した。
客「そんなに抵抗するものではありませんよ」
男の腕に捕らわれたのを確認して、店主が手を離した。
身体を奪われようとしているのに、誰が大人しくしているのだろうか。誰だってこんな状況になったら抵抗するだろうに。
男は見た目の細さからは想像もできないくらい鍛えているようで、腕の中で暴れてもびくともしなかった。
梃子(てこ)でも動かないと決めていたのに、あっさりと2階の部屋に連れ込まれてしまった。
店主は『娘に逃げられないよう、つっかい棒をしておきますね』と言って去っていった。