第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
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その後は薬を買いに来た客が数名いたが、ぼそぼそと低い声でやり取りをして、すぐに帰っていった。
今夜は2階の利用はないかもしれないと思い始めた頃、店主から声がかかった。
店主「舞、お客様と二階へ」
「……はい?」
暗い店内には店主ともう一人の男だけ。
「お客様のお連れ様がいらっしゃらないようですが」
店主の顔が醜く歪んだ。
店主「何を言っているんだ。相手はお前だろう。
お客様、飲み込みの悪い娘で申し訳ありませんね。
さあ舞、さっさとお客様と二階にあがるんだ」
「私の仕事は案内係です。それ以上の仕事は申し付けられておりませんが」
(…やっぱり予想した通りだ)
光秀様が踏み込んでくる時間まで半刻以上ある。
ここはなんとしても踏みとどまらなくてはいけない。
店主「しらばっくれるんじゃない。舞を見初めて、その着物一式を贈ってくださったのはこちらの旦那様だ。
それを身に着けているということは了承したも同然」
(説明もなしに着ろって言ったのはあんたじゃない)
こうなれば情に訴えるしかないと客の男に向き直った。
「旦那様。この着物がどういう経緯で私のところに届いたのか聞いておりませんでした。
仕事前に一言、着ろと言われただけにございます。
今すぐお返し致しますので、お許しください」
店主「な、何を出たらめなことを!
多額の前金は既に受け取っているんだぞ」
(そんなこと、知ったこっちゃない!)
「私のあずかり知らないところで行われたやり取りに屈しろと?」
店主の気を煽るような態度で言葉を放った。思えば真正面から店主に意見をぶつけるのは初めてかもしれないと、妙な高揚感を覚えた。
店主「ああ、そうだ!」
(こうなったら…日頃のうっ憤を全部ぶつけてやるんだから)
何年振りか、まともに店主の顔を見据えた。