第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
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酷い緊張の中で刻々と時間が過ぎていった。
二階に行く客が居なければ、私は暗い廊下にひっそり座っているだけなので、緊張していても気づかれないのが幸いだ。
いつもなら2組、3組と二階に上がっていく頃合いだが、今日はまだ誰も案内していない。
普段と違うと言えば違うが、そういう日も全く無いわけではないので偶々なのかもしれない。
店主「今日は客の入りが悪いな。客が少ないうちに水でも飲んでおけ」
客数が少ないと機嫌が悪くなるはずなのに、水分補給を促してくるなんて珍しい。
(これも普段と違う……)
普段と違うことが多すぎて、どこに不審の目を向けたら良いのかわからなくなってきた。
「厠に行ってきます」
店主「早く戻れよ」
光秀様に飲まされたお茶が残っていて水を飲む気にならず、代わりにお手洗いに行きたくなった。
(ずっと緊張していたから気分転換…)
「はあ」
厠の扉を閉めた途端に緊張から解放され、ため息が出た。
(光秀様……まだですか?)
あんなに信用ならないと思っていた光秀様に早く来て欲しくてたまらない。
外は静まっていて、時折野犬の遠吠えが聞こえてくるだけだ。
厠から戻って廊下に座っていると、店主が私の様子を見て舌打ちしている。
「?」
(特に何もしていないのに、なんで舌打ちされたの?)
やっぱり機嫌が悪いのか?
しかし直にこの店が取り締まりに合うと思えば、店主の機嫌などどうでもいい。
(早く来てください…)
光秀様に撫でられた頭に、そっと手を当てた。