第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
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店主「舞。仕事に出る前に、この着物に着替えるんだ」
いつも通りに仕事に出ようとした矢先、店主に奇妙な注文をつけられた。
姫様が着ているような上質な着物で、簪や帯など一式揃っている。
(店主が選んだにしては趣味が良すぎる…)
だからかえって『この着物は何だろう?』と不信感が募った。
「これを着て仕事をするんですか?」
店主「ああ。いつも貧乏くさい身なりをしているからな。着飾ればマシになるだろう」
「……」
舌打ちしたいのをなんとか耐えて着物を受け取った。
光秀様といい、何故私の周りには失礼な男しか居ないのだろうか。
(はぁ、姫様が羨ましいな)
三成様なら『こちらのお召し物は姫様を想って用意しました』とか、優しく言ってくれるだろうに。
失礼な店主をどつきたいのを我慢して、着替えるために二階にあがった。
「貧乏くさいって…、お給金だってないのに、どうやって小綺麗にしろってのさ」
仕事着の他はお古の寝間着や小袖ばかりで、紅やおしろいだって年頃だというのに一度も使ったことがない。
お古だって店主が用意したものじゃなく、職人達が憐れんで奥様や娘さんのものを持ってきてくれたのだ。
何の思いやりも情もない店主が、私のことを家族だと言う度に吐き気がしていた。
(それも今夜でおしまいになるかな)
今夜の件が片付いたら和菓子職人達と一緒に、新しい店に行く事になっている。
お給金の話も出ていたし、ここよりも良い暮らしができるだろう。お化粧をして、綺麗な着物を着て、同い年くらいの友達だって欲しい。
(いつか恋仲もできると良いな)
夢は膨れるばかりだ。