第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
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光秀様との打ち合わせは昼と夜の仕事の合間に行われ、店主に感づかれないよう毎度場所を変えて落ち合った。
明智様と呼びかけると振り向く人が続出だったので、最近は声を潜めて光秀様と呼ぶようにしている。
呼び方を変えたところで抜群に見目の良い人だから目立つことに変わりなく、本人も気づいているのか、打ち合わせ場所は自分の息が掛かっている店を選んでいるようだった。
光秀「薬と和菓子を作る鍋は一緒なのか?」
「別です。薬草の匂いが強いので、餡を仕込む鍋に匂いが移らないようにしているようです。
この間お伝えし忘れたのですが、夜のお客様は2階を使用する際、付き人や侍従の方を返さなくてはいけない決まりです」
光秀「後ろ暗いことをしている者同士、店内で長時間顔を合わせたくはないだろうな」
「外に待たせておくにしても、市中見回りに見咎められれば面倒とも言っていました」
光秀「それは恐らく見回り対策に加え、取り締まりにも警戒しているんだろう」
「取り締まり…ですか?」
(付き人を返すことが取り締まり対策になる?)
光秀「お前は頭が良いようで鈍いな。
例えば今回の俺のように、薬に勘づいて店に潜入したい人間が居たとする。
1人ならば捕まえるのは容易く、出来ることもたかが知れている。
だが2人で連携して動かれると面倒になってくるだろう?」
光秀様が説明を追加してくれて、ふむ、と頷いた。
店には店主の他に柄の悪い用心棒が数名、その他にも薬作りの男達も居る。それらを一人で相手するのは、例え腕に自信があったとしても無事では済まないだろう。
納得したけれど、おまけのように付いてくる皮肉と意地悪はどうにかしてほしい。
「光秀様は頭が良いですね」
光秀「お前の頭が足りないだけだ」
さらっと馬鹿にされて、せっかく頭の良さに感心していたのに台無しになった。