第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
光秀「目的を知ればお前は引き返せなくなる。
だから最初に聞いてやったんだが仏心など無用のようだな」
「仏心なんて明智様にはないでしょう」
光秀「そうかもしれんな」
面と向かって話していると、この人には本当に神も仏もない気がした。
さっきからずっとヒヤリとした空気が漂っているし目の奥が笑っていない。
何かする時は容赦ない鉄槌を下すに違いなく、店主は恐らく、その容赦ない鉄槌が落ちてくるのを恐れている…。
光秀「では望み通り目的を明かす。
あの茶屋で売っている物は人を退廃的な道へと進ませる。
信長様の命により近々仕掛けるつもりでいるが、些(いささ)か情報が足りなくてな」
店主に義理や愛情などないし、夜の商売がどうなろうと構わない。
だが店の主人が居なくなれば、私だけでなく真面目に働いている和菓子職人は突如勤め先を失うことになる。
大分遅く起きだしてくる私にも『おはよう』と声をかけてくるような優しい人達だ。
明智様はこちらの出方を伺って黙っている。
「……困りましたね。職人が丹精込めて作った餡や大福が、人を退廃させるなんて存じませんでした」
(こう言ったら光秀様どう出る?)
大抵の人は『知らばっくれるな』『本当のことを知っているんだぞ』とか怒るところだろうけど…。
明智様の返答によって、私の今後の出方も変わってる。
(言葉の裏を読めない無能なら手を組むのは御免だ。
だけど私の意図を察せるような人なら……)
光秀「ふっ」
試すような視線を送っていると、冷たく光っていた琥珀が鋭さを和らげた。
光秀「お前は優しい娘なのだな」
「……私の性格など関係ないと思いますが」
キリっとした眉が片方吊り上がった。