第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
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光秀「ほう、期待していなかったが来たか」
「お茶代にしては置いていったお金が多かったので返しにきました」
指定の場所に行くと、明智様は人目がつきにくい店の隅にひっそりと座っていた。
光秀「ここに来てくれた駄賃だ。お前の小遣いにしておけ」
卓に置いたお金をそのまま戻されて面喰う。
常連さんから色をつけられても全部店主に取られてしまうから小遣いなんて貰ったことがない。
戸惑う私に明智様は座れと促した。
黙って座っているとお店の人が食事を運んできた。
光秀「食べろ。あと半刻すればお前は仕事だろう?」
その通りだけど、何もかも知っているというような明智様が空恐ろしくて、箸に手を伸ばす気にならなかった。
「今日初めてお会いした方にご馳走になるわけにはまいりません。
一体、私になんの御用でしょうか」
光秀「せっかちな女だな。だがあの店で長年働いていたにしては腐っていないようだ」
琥珀の目がスイと動き、卓の上に置かれている銅銭に向けられた。
光秀「まず最初に問う。お前はあそこの主人に義理や愛情を持っているか?」
「私に近づいてきた目的がわからないうちは、どんな問いにも答えません」
店主には内緒でここに来たけど、あんな店でも自分の生活を守りたいという気持ちはある。なんでもホイホイと答えると思われては困る。
両親を亡くした時みたいに一文無しで路頭に迷うのはごめんだ。
光秀「意外としっかり者だな」
「目的を言うつもりがないのなら帰ります。
『ご存知の通り』忙しいんです」
光秀「警戒心があるかと思えば、今度は開き直ったな」
「知らぬ存ぜぬは、あなたに効かないように思いましたので」
夜の仕事だけでなく勤務時間まで知っている人間に知らないふりは悪手だ。
こういう相手には開き直ってしまった方が早い。