第28章 狐の化かし合い(光秀さん)(R-18)
姫「お持ちもふかふかだし、餡がしっとりして滑らか!噂通り美味しいです」
「ありがとうございます」
(喉に詰まっちゃったかと思った。良かった…)
姫様は取り澄ましたところがなく下々の私達と変わらない振る舞いをするので、とても親しみやすい。
素直な反応にほうっと胸をなでおろした。
姫「今まで食べた大福の中で一番美味しいです!
舞さんも仕込みを手伝ったりするの?」
「私は仕込みに関わっておりません。職人以外が作業場に入るととても嫌がられるんです」
姫「そうか~。餡子の味はシークレットなんだね」
「?は、はい」
時々姫様は耳慣れない言葉を使うけど、会話の流れでなんとなく意味が伝わってくるので、支障はない。
昼も夜も働いているので早朝の餡子の仕込み時間は短い睡眠にあてている。
とは姫様に言えなかった。
人気店の夜の姿、密かに交わされる薬のやり取り、男女が獣のように交わる音。
そんな裏の姿をこの純粋な姫様には知られたくない。
三成「ふふ、姫様。大福の粉が頬についていますよ」
姫「えっ!?」
姫様が手に付いた大福の粉を落としていると、三成様が少し身を屈めて顔を覗き込んだ。
細められた紫の瞳には姫様に対しての愛情が滲んでおり、ひと目見ただけで姫様を一心に想っているのがわかる。
「……」
三成「拭いてあげますので、こちらを向いてください」
姫「ん……」
三成様に見つめられて、姫様の頬にさっと朱がさした。
三成「とれましたよ」
姫「ありがとう、三成君」
「いつも仲睦まじくて羨ましいです」
三成様は参謀をしていると聞くけれど、こうしてお見掛けしている分には謀(はかりごと)をするような方には見えず、姫様ととってもお似合いだ。
店主「おーい、舞。東側の席に新しいお客さんだ。注文をとってくれ」
店主はにこやかな顔をしているが、長年の付き合いで『何をさぼってるんだ』と怒っているのがわかる。
お二人と話す時間は唯一の楽しみだが、今日はこれでおしまいだ。