第26章 魔女の薬(共通ルート)
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息を詰めてじっと過ごすこと四半刻。
この部屋に真っ直ぐ向かってくる足音があった。
馴染みのある足音は春日山城に居る時よりも早く、荒々しかった。
(謙信様だ。無事かな……)
兼続さんが立ち上がる気配がした後、襖が静かに開き、衣擦れの音がして閉まった。
謙信「片を付けてきた。舞は無事か」
しっかりとした口調に謙信様の無事を知った。
兼続「はい。薬が混入していた酒は口にせず、茶を飲んでいましたので影響はないようです」
謙信「そうか。あとは口からどれだけ吸い込んだか気がかりだな。
まだ起きているのか?」
兼続「はい。衝立の向こうに」
謙信「舞、気分はどうだ」
空気がふと動き、衝立の向こうから厳しい顔つきをした謙信様が現れた。
(怪我はしていないみたい。良かった…)
謙信「そのような暗い所に居ては顔色がわからん。
こっちに来い」
衝立の影で身を縮めていた私は、言われた通り立ち上がって影から出た。
部屋には明かりが灯っていたけれど顔色を判別できるほど強い光じゃない。
謙信様は私を光源の傍まで引っ張っていき、座らせた。
謙信「どこか悪いところはないか」
お二人は私に異常がないかとつぶさに見ている。
「謙信様が避難させてくれたおかげで、どこも悪いところはありません」
心配してもらっているのを申し訳なく感じるほどに、普通で、元気だ。
謙信「酒に入っていた薬と焚かれていた香は南蛮渡来の薬だそうだ。
中には強い症状に苦しんでいる者達も居る。舞に影響がなかったか心配した」
恐れるように私の髪をそっと撫でられ、恥ずかしくなって俯いた。