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☆姫の想い、彼の心☆ <イケメン戦国>

第26章 魔女の薬(共通ルート)


「わかっています。私の方こそ軽率でした。
 あの、それよりも少し着物を緩められてはいかがですか?とても辛そうです」

兼続「……やめろ」


ギリと歯を食いしばる音がして、手ぬぐいを差し出そうとした手が止まった。

兼続さんは顔を背け、表情を隠した。

胸を押さえている手にも汗が浮かんでいる。


兼続「お前の言葉や行動、全てが毒だ。
 その手ぬぐいに残る体温と香りも、思いやりの心も全て」


冷静と興奮の狭間で吐き出された言葉には切実さがこもっていて、私は手ぬぐいを引っ込めた。


(兼続さんが抑えこもうとしている衝動を、私が刺激しているんだ)


「ごめんなさい。一緒に居ると辛いんですよね。
 お付きの人の部屋に行きますね」

兼続「ダメだ」


部屋を出て行こうとするのを鋭い声が引き留めた。


兼続「今夜の舞は宴で注目されていた。諦めきれない男達が部屋の外で待ち構えているはずだ。
 付き人の部屋に到着する前に襲われる可能性がある」

「え……」


身を守るにはあまりにも頼りない襖。

その向こうで私を狙っている人達が居るかと思うと身が竦んだ。


兼続「はっ……ここに居れば安全だ。
 この体たらくだが俺は謙信様より、お前の護衛を任されている」

「で、でも、兼続さんだって辛いのでしょう?」

兼続「今を凌げば良いだけのこと。余計なことをせず、そこに座っていろ」


逸らされていた顔が一瞬だけこちらに向いて、すぐにまた逸らされた。

異性が視界に入ることさえ苦しんでいる人に、これ以上の負担を強いたくない。


「わかりました。じゃあ、そこの衝立(ついたて)の向こうに居ますので、よっぽど辛かったら呼んでください」

兼続「辛いと声をあげたら、どうするつもりだ。
 恋仲でもない男を慰めるつもりか」

「っ」


苦しげな吐息をもらす口から、ハッと短い笑いが吐き出された。


兼続「行け。そして何もしゃべらず、じっとしていろ。
 気配さえ消して、いっそのこといびきでもかいて眠ってくれ」

「は、はい!」


媚薬で苦しむひとに『辛かったら呼んでください』なんて、考えナシだった。

これでは誘惑を囁いて相手を苦しめる悪魔と変わらない。


(ごめんなさい、兼続さん!)


あとでちゃんと謝ろう。
そう考えながら衝立に隠れて息を殺したのだった。

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