第26章 魔女の薬(共通ルート)
額に手を当て、気を鎮めるように深呼吸を繰り返している。
「私を襲わせ、謙信様との仲を裂こうとしたってことですか」
兼続「そうだ。謙信様を陥落させることは無理難題でも、舞を貶めるのは容易い。
お前が傷物となれば謙信様との関係も解消されると……は、ぁ…そこを狙われたんだろう」
あの宴には女性は数えるほどしか居なかった。
席に長くとどまる程に、周りの男達の目は私に向けられただろう。
(だから謙信様はいち早く私を逃してくれたんだ)
薬の症状が出始めていたのに、お酒を飲むふりをしてまで…。
そこまで考えて胸が締め付けられた。
「謙信様は……大丈夫でしょうか…」
すぐに後を追うと言っていた割に、まだ姿を現さない。
兼続「おそらく……は、粛清を……」
窓枠に腰をかけていた兼続さんがグラリと体勢を崩した。
「兼続さんっ!」
部屋に入った時から近寄らないようにと言いつけられたけど、崩れ落ちそうになっている人を放っておけなかった。
窓の向こうに落ちてしまうのではと引き寄せた身体は、燃えるように熱かった。
兼続「触るなっ!」
「ご、ごめんなさい」
ばっと手を振り払われて、慌てて手を引っ込めた。
事情を知っているとはいえ強い拒絶に傷ついた。
「お水……飲んでください、ね。
少し古いですけど、来る途中で汲んだ川の水です」
大名の領地に入ってから水筒が空になって補充したものだ。
これなら媚薬とか、そういったものは入っていない。
兼続「それは謙信様にとっておけ。
あの方がどんな状態で帰ってこられるかわからないからな」
「はい……」
することもなく、汗をかいている兼続さんに扇子で風を送った。
痛風みたいに吹く風で刺激を与えるかもしれないと微弱な風を送っていると、兼続さんは大きなため息を吐いた。
「ご、ごめんなさい。余計なお世話でしたか?」
急いで閉じた扇子を胸の前で握り締めた。
兼続「いや……。さっきは悪かった。
あそこまで邪険に振り払う必要はなかった」
兼続さんのこめかみから汗がつと零れ、首元まで垂れていく。
(凄い汗…)
隠そうとしているけど、呼吸する度にお腹や背中が動いている。
息苦しさと戦いながらも尚、身なりはきちっとしたままだ。