第26章 魔女の薬(共通ルート)
「それでは謙信様が一人になってしまいます。この場は危険なのでしょう?」
花粉症が幸いしているということは、クシャミ、目のかゆみ、鼻づまり。
いったいどの症状が功を奏しているのだろう。
私と兼続さんを下がらせようとしている謙信様は一人になって大丈夫なのだろうか。
そこまで考え、間近にある首筋に汗が浮かんでいるのが見えた。
「……?」
(今…そんなに熱くないよね?
謙信様は汗っかきでもないのに、どうして?)
真夏でさえも涼しげで、汗をかくのはせいぜい激しい鍛錬の後くらいだ。
兼続さんを見れば、常に冷静で冷ややかさを湛える顔が淡く色づいている。
2人の些細な異常を見つけて視線で周囲を確認すると、陶器で出来たお洒落な香炉が、広間の中でも主に私達が座っている場所に多く置かれている。
鼻がつまっていたから香の存在に気づいていなかった。
(もしかして香に何か混じっているのかな…)
導き出した答えを確かめようとお二人を見れば、無言で返された。
謙信「……行け」
言葉少なに言う声に、焦りが滲んでいるのは気のせいじゃない。
「謙信様が心配です」
謙信「此度の件、俺も標的にはなっているだろうが一番の狙いはお前だ」
「え?」
この宴の席で何かあるとすれば、孫娘と謙信様をくっつけようとする大名の陰謀だろうと、そう思っていた。
(狙いが、私?)
謙信「話は兼続に聞け。お前達が去った後、すぐに理由をつけて席を立つ。
心配せずに……い、け」
一日中戦場を駆けまわっても息を乱さない人が、一瞬苦しげに言葉を途切らせた。
肩を掴む大きな手にグッと力がこもったかと思うと、あっさりと離れていった。
謙信「舞、顔色が悪いようだな。
長旅で疲れたのだろう。部屋でゆるりと休め」
謙信は扇子を懐にしまいこんで酒を口に含む……フリをした。
(謙信様がお酒を飲まないってことは、もしかしてお酒にも…?)
私の心配をよそに、流し見る二色の瞳はドキリとするような色を含みながら理性的だった。
周囲に聞こえるように言ってくれたのは私が中座しやすいようにだろう。