第26章 魔女の薬(共通ルート)
「?」
(謙信様が扇子?)
義元さんや信玄様はしょっちゅう扇子を変えてお洒落を楽しんでいるけど、謙信様にそのイメージはない。
そもそも普段は扇子なんて持ち歩かず、懐や袂に忍ばせている物と言えば、小刀とか小刀とか小刀とか物騒なものばかりだ。
突然現れたレアアイテムに面食らっていると、簡易的に外部と遮断された空間で謙信様が囁いた。
謙信「ここは危険だ。言う通りにしろ」
「!?」
声色の鋭さは尋常ではなく、まるですぐそこに危険が迫っているような言い方だった。
耳を澄ましても酒を飲み交わす楽しげな声しか聞こえない。
どこに危険があるのかと問いたくても、誰かに聞かれてはまずいと聞けなかった。
(普段使わない扇子を広げたのは、口の動きを読み取られないようにするため?)
そうしているうちに謙信様は隣席の兼続さんに声をかけている。
謙信「兼続、どうだ」
兼続「……少々」
(何がどうで、何が少々なのかさっぱりだな)
「……?」
こういう時、自分は現代人だからわからないのかと置いてけぼりをくらった気分になる。
その場の雰囲気をそのまま受け入れてはいけないのだと、これまで何度も経験してきたのに学ばない自分が悔しい。
裏の裏まで読めるようになるまでに、どれだけ時間がかかるのか見当がつかない。
兼続「舞は?」
謙信「まだだ。カフンショウとやらが良い方向に作用しているようだ」
「?」
花粉症という言葉がない乱世で、クシャミを連発させているのは私くらいしたもので、この間花粉症についてお話したばかりだった。
兼続さんの藤色の眼差しが私に向けられ、何事かと見返すと安心したように息を吐いている。
(何だろう…)
謙信「気分が悪くなったと適当に理由をつけて、兼続と共に下がれ」
顔を寄せて話す私たちは他者から見れば堂々といちゃついている恋仲だろうけど、交わされる会話はただ事ではなかった。
ここは陰謀と裏切りがはびこる乱世。
少ない情報から今の状況を汲み取るくらいしなくては本当に役立たずだ。