第26章 魔女の薬(共通ルート)
(わざわざ連れて来たのに早々に追い払うくらいには、不快に思われたんだろうな)
反省しきっていると謙信様の秀麗な眉がわずかに寄った。
(すぐに動かないから怒っている?)
城では謙信様が言葉を発すれば、家臣の人達は疑問を挟むことなくすぐに動く。
質問ばかりして動かない私に無礼を感じているのかもしれない。
(う…普通にしていても怖いのに、眉が寄るともっと怖い)
言われた通りにするしかないと、お酌のために持っていた徳利を置き、中座の準備に入った。
ところが謙信様は手慣れた仕草で身体を寄せてくると、私の肩に手を回した。
謙信「待て」
(ひえっ!?女嫌いの謙信様が肩に手を……っ!?)
急に演技タイムに突入し、それならそうと前触れを出して欲しかったと、身体だけでなく心臓までも縮めて固まった。
謙信「役不足などと、そのように言うな」
謙信様は宴会場をぐるりと見回して言った。
こちらを伺っていた男性達は目を逸らし、女性達は頬を染めた。
謙信「余計な男達の視線を集めているのは気に食わないが、舞の麗しさに女達は及び腰だ。充分事足りている」
「余計な視線?皆謙信様とお近づきになりたいって視線が熱いですもんね。
事足りているのなら良いのですが……」
せっかく『麗しい』と褒められたのに、肩に神経がいってしまい聞き流してしまった。
恋仲のふりをするにしても突然の密着に心臓がうるさい。
(恋人の演技しなきゃ)
ときめいている場合じゃないと謙信様の肩に『えい!』と頭を預けた。
信玄様や幸村と一緒に居ると線が細く見える人だけど、肩はがっしりとしていて腕の力もしっかりしていた。
謙信「……」
(な、なんで黙っちゃうのよ)
こっちは演技に合わせたのに無言になられては立つ瀬がない。
(まあでも……ちょっと安心するかも…)
寄っかかってもびくともしない逞しさに、図らずも安堵を覚えていた。
(今まで謙信様に感じたことのない包容力を感じる…)
思考がおかしな方へいきそうになったところで、目の前にパラと扇子が広げられた。