第25章 耳掃除をしよう(安土勢)
後日、耳掃除をしてあげたのだけど……。
「あ!動いちゃ駄目です!」
光秀「舞がいいところを撫でるものでな」
「いやらしい言い方をしないでください。
あ……ここ、奥に……」
光秀「ん……」
「どうですか?」
光秀「なかなか……いい、な…」
「じゃあこっちは?」
光秀「ん……」
眉をきゅっと寄せ、光秀さんが息を漏らした。
形の良い眉がきゅっと寄って煽情的にも見える表情に、さっきから私の心臓は忙しい。
動揺を悟られないよう耳掃除に集中していると、襖の向こうから声がかかった。
九兵衛「ん、ごほん!光秀様、舞様、お取込み中のようですが失礼してもよろしいですか?」
(お取込み中って、なんのお取込み中だと思われてるの!?)
「ぜんっっっぜんお取込み中じゃないです!!どうぞ!」
襖を開けて貰えれば状況がわかるだろうと入室を促しても、襖はぴったりと閉じたままだ。
九兵衛「着物の乱れを直さなくても…?」
「ち、ちがっ、いやらしいことは何もしてません!」
九兵衛「ですが先ほど光秀様の……」
「それは(耳掃除が)気持ち良くて唸っていただけです」
九兵衛「…やはり少し時間を置いてから出直しますね」
「な、なんで?盛大に誤解されてる……」
光秀「放っておけ」
障子向こうの影が消えてしまうと、膝枕している光秀さんは心地よさそうに目を瞑ったまま笑っていた。
光秀「それにしても耳掃除をしてもらうというのは気持ちが良いものだな。
終わったら舞にもしてやろう」
(光秀さんが私の耳掃除!?)
血を見そうな予感しかしない。
「せっかくですが遠慮します。自分の掃除は自分でできます」
光秀「遠慮するな。お前には貸しが幾つかあるからな。
少しずつ返さなくては…」
「…余計なことは考えなくて良いです」
あの夜のように白銀の髪を撫でてあげると、光秀さんは珍しく大人しくなった。
(安土の化け狐と言われる人が、私の膝の上でリラックスしてる…)
狐に化かされているような不思議な気分で、私は耳掃除を続けたのだった。