第25章 耳掃除をしよう(安土勢)
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「貸し二つですよ、光秀さん」
光秀「世話をやいてくれと頼んでいないぞ」
「む!じゃあ、帰ります!」
光秀「気をつけて帰れ」
「じゃないでしょ!一人にするわけないじゃないですか!」
日が落ちても九兵衛さんはまだ帰ってこなくて、放って帰ることもできずにそのまま看病している。
薬を飲んでも光秀さんの熱は高くて一人にできそうにない。
「耳に異物が入ったっていうのは本当なんですか?
さっき見た時は見えませんでしたけど」
光秀「……さあな」
「間があった気がするんですけど」
光秀「気のせいだ」
温くなった手拭を取り換えると、気持ち良さそうな顔をしている。
「寝てください。その方が治りも早いし、楽ですよ」
高熱を出している割に、光秀さんは一度も寝ていない。
光秀「まだ眠れなくてな」
「なんでですか?」
光秀「どうしようか考えているところだ」
「何をですか?」
九兵衛さんの帰りを待っているのかと思いきや違うようだ。
光秀さんの目が薄く開き、琥珀の目が私を捉えた。
光秀「どうしたらお前を帰さなくて済むか」
「……冗談言っている暇があったらさっさと寝てください。
本気で帰れないじゃないですか」
こんな時にまで人をからかうなんて、一瞬ドキッとしたじゃないと一人ごちる。
光秀「なるほど俺が眠らなければお前は帰らないか」
「それじゃあ看病の意味がないですよね?」
ごほっ、ごほっと咳こんだ光秀さんの頭を撫でてあげる。
政宗や三成君が気持ち良いって言っていたから、ことさら優しく撫でてあげた。
「無理せず眠ってください。
帰って欲しくないなら帰りませんし、風邪が治ったら耳掃除だってなんだってしてあげますから寝てください」
弱くなっていた目力に、きらりと光りが走った。